身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

「あの……どうしてそんなに私とのことを知りたいんですか? あなたにとっていい話ではないかもしれないのに」


 膝を抱えて遠慮がちに嘉月さんを見やると、彼はシャボン玉に夢中になっている小さな背中からこちらへと視線を移す。


「そりゃあ気になるよ。あの時泣いた理由が、俺に関係するものだったら謝りたいし。記憶がない間に、俺たちになにかあったとしてもおかしくないだろう」


 核心を突かれてギクリとした私は、頭の中で適当な理由を猛スピードで検索する。


「あ、あれは……青來さんが記憶を失ったと聞いて感情移入してしまっただけなんです。私、わりと涙もろくて、ウミガメの産卵の映像を見ただけで泣けるんで」


 おいおい、ウミガメはさすがに無理あるでしょ! なんで今出てきたのよ、ウミガメが。

 自分で自分にツッコみ、頭を抱えたくなる。嘉月さんは「そう、なのか?」と納得したようなしていないような、微妙な反応をしていた。

 次いで、彼は当時を思い返すように空に舞うシャボン玉を見上げる。


「泣かれたのは衝撃的だったんだが、それがなかったとしても俺はきっと君を想っていた。退院して会いに行ったら彼女は辞めたと聞かされて、なにかが足りなくなったような寂しい感覚がずっとあったんだ」
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