身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
俺はそんなふうに妙に達観している子供だったので、あまり可愛げがなかったと思う。愛想が悪いのは元々の性格もあるが、幸せだったとは言い難い家庭環境が関係しているのかもしれない。
仲間と話している時も、皆の表情や、本人が言ったことすら忘れている発言などもこちらが覚えているせいで、あれこれ難しく考えるのが癖になり、いつも仏頂面になっている自覚もある。
恋愛面でも、不機嫌だと思われたり『どうしてそんなことまで覚えているの?』と気味悪がられることも多く、長い間恋はしていない。
セーライの副社長に就任してからの数年は、事業をどう発展させていくかばかり考えていて恋愛からは余計に遠ざかっている。
そんな中、明河商事と取引を行うことになり、打ち合わせで本社へ出向いたついでに隣のカフェ、ヱモリに入った。
ヱモリには過去に一度訪れている。確か中学三年の時、離婚してからもこっそり会っていた父に連れられてきた。
父もレトロなものが好きで、アンティークを収集する趣味もあり、当時からここの常連だったようだ。