身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
無意識に眉根を寄せてじっと見つめていると、その視線に気づいた彼女がふわりと微笑む。
「どうぞごゆっくりご覧になってください。秘密箱は売り物ではありませんが」
きっと目つきが悪くなっていたにもかかわらず、彼女はまったく気にしていない素振りだった。店員と客なのだから当然だろうが、気分がいい。
笑顔が昔の面影を残している彼女の、目元に黒子があるのも見つけた。やはりあの時の子だろうと自分の中で確信に変わっていく。
あの時、おそらく小学校高学年だった彼女は、いつの間にか俺の隣で秘密箱を眺めていて、『宝物を入れたいなぁ』とひとり言を呟いていた。
俺はまったくの逆で、嫌なものをしまって取り出せないようにしてしまいたいと思っていた。それはもちろん苦い記憶のことだ。
きらきらと目を輝かせる彼女に温度差を感じつつ、なんとなく本音をこぼす。
『俺は嫌なものを閉じ込めておきたい。開け方がわからなくなればもう取り出せないから』
『そっかぁ、なるほど。でも、秘密箱は開けるのが楽しいんじゃないの?』
さっぱりと返されて、俺は言葉に詰まった。