身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

 確かに、秘密箱は試行錯誤して開けるのが楽しみなのであって、取り出せなくするためのものではない。ただ、小学生の女の子がそんな風に言うとは思わず、面食らってしまった。

 次いで、彼女はなにかを思いついたらしく、ぱっと表情を明るくする。


『中身はなんでもいいんだよね。嫌なものを入れても、誰かと一緒に開けたらきっと楽しいよ!』


 子供らしい、突飛な考え。だが俺にとっては、目から鱗のような考え方だった。

 見たくないものに蓋をしようとしている俺より、この子は何歩も先を行っている気がする。とても前向きで、こういう人が幸せになれるのだろうと感じた。

 この出来事は、再びヱモリに来るまで忘れていた。映像記憶は常に覚えているものばかりではなく、意識的に思い出そうとして蘇ってくるものもあるから。

 当時は面白いことを言う子だな、くらいにしか思っていなかったのに、大人になった今思い出すと目の前が開けたような感覚を覚える。そして、一緒にいてくれる特別な誰かを見つけたくなった。
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