身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

 ただひとつだけ助かったのは、事業に関するアイデアをノートに記していたことである。

 書かれていたのは〝レトロさを生かした知的玩具〟〝一回百円のカプセルトイ〟など、あまり自分では考えなさそうなもの。これまでセーライの玩具事業は、携帯ゲームやアニメのフィギュアなど、大人向けのものが主だったからだ。

 どんな心境の変化があったのかはわからないが、俺は小さな子供が喜びそうなおもちゃを作ろうとしていたらしい。昔ながらの雑貨を参考にするというアイデアは、おそらくヱモリからヒントを得たのだろう。

 それらは玩具事業の幅を広げるためにもアリだと思い、自ら会議で提案して進めてきた。

 ネームバリューのおかげもあり、この三年弱でセーライも子供向けのおもちゃを売り出してきたと、世間にだいぶ印象づけられたように感じる。

 俺の居場所である副社長室にも、商品のサンプルを並べるようになった。デスクにちょこんとおもちゃが置いてあれば、自分もここを訪れた人も心が和むだろうと思って。

 最初は、強面の俺とおもちゃのギャップに戸惑う社員が続出したらしいが、今や新商品が出るたび皆が当たり前のようにサンプルを持ってくる。
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