身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

 以前よりさらに社員との距離も縮まった気がするし、こんなところにもいい影響が出るとは予想外だった。

 そのうちのひとつであるカプセルトイを、副社長室にやってきた朝陽も興味深げに眺めている。彼は打ち合わせで社を訪れると、その後だいたいここへ寄るのだ。

 朝陽とは中学時代に初めて会って以来、密かに付き合いを続けている。父はそれよりずっと前から、母の目を盗んで会っていた。

 学校からの帰宅途中に父が車で待っていて、その中で少し話をしたり、次に会う約束をしたりした。

『母さんには絶対に内緒だぞ』と、いたずらっぽい顔をして会ってくれていた彼はダメな父親だったのかもしれない。夫婦としても、決していい夫だったとは言えないだろう。

 でも俺は、そういうおおらかな父が好きだった。母がどれだけ恨んでいようと、俺には関係ないという気持ちもどこかにあった。

 残念ながら二年前、俺が事故に遭った数カ月後に病気で亡くなってしまったが、今も父には感謝しているし、定期的に墓参りもしている。

 朝陽に対しても同じ。母は、憎い元夫と不倫相手の子供だというだけで朝陽のことまで毛嫌いしているようだが、彼自身はまったく悪い人間ではない。朝陽の明るく人懐っこい性格も好きだし、俺にとっては大切な家族のひとりだ。
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