身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
あの昴くんが、まさか俺の絵を描いてくれていたなんて。心の距離はなかなか縮まらないだろうと思っていたから、ものすごく嬉しい。
「……ありがとう。やばいな、これは」
本気で涙腺が緩む。口元を片手で覆う俺を、都さんは微笑ましげに見つめていた。
心が温かくなるのを感じながら、愛しい絵をふたりでじっくり眺める。
「周りのごちゃっとした線はたぶん桜ですね。色がカラフルだけど」
「じゃあ、この丸は太陽か」
「私もそう思ったんだけど、『おつきさま』って言ってました」
顔らしきものとはまた別の、ぐるぐると描かれた丸が月だというので、俺は首をかしげた。
「なんで月なんだろうな。花見をしたのは昼間だったのに」
「……もしかしたら、私が月が好きだってよく言ってるから、かも」
意外なひと言が聞こえてきたので助手席に目をやると、都さんがとても優しく慈愛に満ちたような笑みを見せる。
「月ってすごく魅力的じゃないですか。満月は真っ暗な夜も明るく照らしてくれるし、私には一番輝いて見える。太陽よりも私の心をあったかくしてくれるんです」
──その言葉を耳にした瞬間、なにかが頭の中で繋がるような感覚がして動けなくなった。