身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
なんだ? デジャヴュのような……以前にも同じことがあったのか?
様々な情報が頭の中で交錯していて、はっきりとはわからない。なにか思い出せそうなのに、あと少しのところで記憶の棚から引っ張り出せない。
一瞬現実を忘れて黙考していたとき、「じゃあ、そろそろ行きますね」という声ではっと我に返る。
「渡せてよかったです。お手間取らせちゃってすみませんでした」
ぺこりと頭を下げ、笑顔を残して助手席のドアを開けようとする彼女に向かって、俺は咄嗟に口を開く。
「都──!」
その瞬間、無意識に飛び出した呼び方に自分で驚いた。彼女も目を丸くして振り返る。
俺はどうしたんだ、さっきから。戸惑うと同時に気まずさに襲われ、ふいっと目を逸らす。
「あ……悪い、急に馴れ馴れしく」
「これからも、そう呼んでください」
すぐに意外な言葉が返ってきて、再び目を合わせた。綺麗な瞳には、情熱の色がうっすら滲んでいるように見える。
「都って、呼ばれたいです」
少し恥ずかしそうに俯き気味で言われ、胸がぎゅっと掴まれる感覚を覚えた。反則だ……可愛すぎてどうにかしたくなってしまうだろ。