身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
表情は変わらないが内心動揺する俺に対し、彼女はみるみる頬を赤らめる。
「そ、それじゃ! ありがとうございました……嘉月さん」
照れた様子で名前で呼ばれ、俺の顔にも自然に笑みが浮かぶ。
「こちらこそ。またね、都」
お言葉に甘えてそう返すと、彼女は嬉しそうに破顔した。
車を降りて軽く手を振り、去っていく華奢な後ろ姿をしばらく見つめる。俺の胸中では、甘酸っぱいときめきが徐々にざわめきに変わっていくのを感じていた。
都と会ってから数日、俺は毎日悶々として過ごしている。
あのデジャヴュのような感覚、そして無意識に口から出た呼び方。これまで漠然と抱いていた、俺と都の間になにかあったのではという疑惑は、ほぼ確信へと変わっていた。
記憶がない期間のことは、人に聞いたり自分の部屋にあったものを調べたりしてなんとか理解していったのだが、都に関することだけは特に手がかりがなかった。
スマホには連絡先や通話の記録も、写真も残っていない。この目で見たものは記憶できる力があったおかげで、昔から写真を撮る習慣はなかったのだ。