身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

 ちょうどベッドと棚の隙間に入ってしまい、さっきとは別のため息をつく。これは棚を動かさないと取れないな……面倒だが仕方ない。

 棚はそんなに大きなものではないので、簡単に動かせる。少しずらして隙間を覗くと、カフスの他になにか小さなものが落ちていることに気づいた。ゴールドらしき色で鈍く光っている。

 手を伸ばしてまずカフスを、次にもうひとつのなにかも拾い上げる。


「……ピアス?」


 ゴールドとくすんだピンクの花がついたアンティーク調のそれは、明らかに女性物のピアスだ。なぜこんなところにピアスなんて……。

 奇妙に思ったのはほんの数秒で、すぐに考えられる可能性が頭の中で弾き出される。

 少なくとも三年間は女性をこの部屋に上げてはいない。とすれば、記憶のない半年の間に誰かを呼んでいたと考えるのが自然だろう。

 確か入院中に、伯父から『見合いをしたことを覚えているか?』と聞かれた。俺が首を横に振るとそれ以上なにも聞かれなかったし、俺も見合いには興味がなかったので深掘りしなかったのだが、その相手となにかあったのだろうか。

 もしくは、都と……?

 初めて大きなヒントとなる物的証拠を見つけ、胸が激しくざわめき始めていた。


< 155 / 276 >

この作品をシェア

pagetop