身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

 芳枝さんって、嘉月さんのお母様?

 意外な人物の名前が飛び出した驚きと、再会したことが耳に入ったかもしれないという不安で、私は目を見張った。

 詳しく聞きたいことばかりなので、お客様が来ないうちに少し話をしようと席の方へ促した。私はテーブルの脇に立ったまま、まずお母様との関係について尋ねてみる。


「お母様ともお知り合いなんですか?」
「ええ、よくしていただいてます。青來家に何度もお邪魔していて、芳枝さんともお茶をする仲なんですよ」


 ふふっと笑う彼女を見てぽかんとしてしまう。

 すごいな、あの気難しいお母様とお茶をするほど仲がいいなんて。会う回数も少なかった私は距離も縮められず、決して後味のいい別れ方ではなかったから。羨ましいとすら感じてしまう。

 でも、だからってわざわざ私のもとに確認しに来るだろうか。訝しさを抱く私に、鈴加さんは急に表情を曇らせる。


「それが……こんなことを言うのは心苦しいのですが、芳枝さんは私に婚約者にならないかと提案してくださっているんです」


 思わぬ内容が語られ、心臓がドクンと重い音を立てた。
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