身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
私の中ではなにかが急激に冷め、かつ妙な力が湧いてくるのを感じた。「……とりあえず、コーヒー淹れてきますね」と話を中断し、私はカウンターの中へ入る。
嘉月さんは、婚約者のような存在がいながら私に気のある発言をするような、不誠実な人ではない。推測だけれど、鈴加さんとお母様の中で勝手に話を進めているんじゃないだろうか。
私はもうあの頃とは違う。昴の母親になって、彼との生活のためにはなんでもすると誓った。
今ではそこに嘉月さんも加わっている。三人で幸せに暮らすために、これくらいで負けていられない。
コーヒーを淹れながら考えをまとめ、余裕の笑みを浮かべてこちらにやってきた彼女に、カップを差し出すと同時に口を開く。
「鈴加さん。お言葉ですが、私は諦める気はありません。なにもやましいことはしていませんから、その必要もないと思います」
私が言い返すとは思わなかったのか、彼女は一瞬動揺を見せた。表情もみるみる無に変わっていく。
「鈴加さんが婚約者候補だというお話は、嘉月さんも同意していますか? そうでないなら、ご家族の信頼は得ていても、彼は不信感を抱くんじゃないでしょうか」
嫌味には嫌味で返す。この人にはナメられたらいけないなと、本能で感じ取った。