身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

 彼女の眉が不快そうに歪み、憤りを抑えるようにまつ毛を伏せた。ひとつ息を吸い、最初の可愛らしさを感じさせない冷淡な表情を見せる。


「そうですか。あなたがこれ以上惨めにならないようご忠告したのですが、仕方ありませんね」


 静かないら立ちを感じる声で言うと、彼女は秘書スマイルを取り戻す。


「お母様と和解できるといいですね。私が正式な婚約者になる前に」

 
 笑顔で最後にしっかりと棘を刺し、私の手からコーヒーカップを抜き取る。フレアスカートを優雅になびかせて出ていく彼女を見送ると、店内には誰もいなくなった。

 抑えていた怒りがむくむくと込み上げてくる。私が息を吸い込むと同時に、調理場から里実さんが鼻歌を歌いながら出てくる。


「あー腹立つ! 顔はすごく可愛いのに、性格が全然可愛くない!」
「なになになに!?」


 本音を吐き出す私に里実さんがギョッとして、店頭に並べるクッキーを落としそうになっていた。

 カウンターの中にふたりで立ったままお客様がいない隙に今あったことを話すと、里実さんは呆れた様子で腕を組む。


「急にマウント取られたのね。それは私もイラッとするわ。地味に嫌なバチが当たってほしいと願うわ」
「はい。今〝鳥のフンにでも当たれ!〟って思ってます」
< 165 / 276 >

この作品をシェア

pagetop