身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
彼の手に自分のそれを重ね、涙声で問いかける。
「思い出してくれたの?」
「断片的にだが、ここへ来たことだけは」
奇跡だ。消えたと思った宝物が、戻ってきてくれた。
私はもう胸が一杯で、「それだけでも嬉しい」と、ぼろぼろ涙をこぼしながら笑った。
嘉月さんも憂いを帯びた笑みを浮かべる。大切そうに両手で私の頬を包み、親指で涙を拭って確かめる。
「その時にはもう、俺たちは恋人の関係に?」
「そう、お見合いをして婚約者になったんです」
「お見合い相手は都だったのか」
驚く彼に、私は苦笑を漏らした。周りに婚約を発表する前だったし、知っている人にもきっとお母様が口止めして、彼の耳に入らないようにしていたんだろう。
「でも、私はその前から嘉月さんが好きだったから、運命だねって話したんですよ」
「俺もそう思っていたはずだ。記憶がなくなる前から君に惹かれていたんだから」
甘い言葉に酔いしれたくなっていると、彼の表情がはっとした様子に変わる。
「じゃあ、昴くんは……」
それは、今日こそ伝えようと思っていた事実。私は彼を見上げてしっかりと頷く。