身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
私も同じ方へ視線を向けた瞬間、今まさに思い浮かべていた人物がいてギョッとする。
「あら、こんにちは」
「鈴加さん……!」
私たちのテーブルに近づきながら、綺麗な秘書スマイルで挨拶したのもつかの間、口角は上げたまま瞳は冷たく変化する。
「やっぱり、浮気疑惑は本当だったみたいですね。まさか現場に遭遇するとは」
軽蔑するような眼差しを向けられ、私は口の端を引きつらせた。この秘書様、本当に嫌味を包み隠さないんだから。
昴は私たちの会話は理解できないけれど、なんとなく聞かせるのは嫌だな……と思っていると、タイミングよく里実さんが出てきた。
店員として私たちに挨拶した後、「昴くん、クッキー食べる?」と声をかけて離れた席に連れて行ってくれる。
意味深な笑みを浮かべ、私に目配せする彼女を見て気づいた。男女の痴話も大好きでこういうことに敏感な里実さんは、私たちの異様な空気を察知してくれたのかもしれない、と。
とにかくありがたいので、私は苦笑を漏らしつつ「ありがとうございます」とお礼を言った。
大人だけになったところで、朝陽くんはため息を吐き出して気だるげに頬杖を突く。