身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

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 ついこの間新年を迎えたと思ったのに、あっという間に一月が終わろうとしている。雪がちらつく東京の街を忙しなく行き交う人々は、暖かいこの店内に入ると皆一様にほっとした表情に変わる。

 北千住駅から徒歩五分ほどの場所にあるここは、十階建てのビルの隣にちんまりと佇む雑貨カフェ『ヱモリ』。大正時代から続いている老舗で、リノベーションしているが当時のインテリアをそのまま使っているのでレトロモダンな雰囲気だ。

 私、明河(あけがわ)(みやこ)は、短大を卒業してからこのカフェのスタッフとして約四年働いている。

 コーヒーを愛してやまないマスターが厳選した豆から抽出する本格的な一杯が楽しめ、もちろん軽食の味にも自信がある。テーブル席は六つだけだが、テイクアウトもOK。

 しかし、この店のメインはコーヒーだけではない。食器や生活雑貨、骨董品に玩具、とにかくたくさんの掘り出し物を販売している。

 これらはマスターや、彼の友人である私の父が好きなもの。ただただ自分たちのお気に入りを並べて売っているという、なんとも勝手な店なのだ。
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