身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
「どうして、都と朝陽が……」
嘉月さんは、私たちが以前から知り合いだったことも忘れている。戸惑った様子でゆっくり近づいてくる彼だったが、突然顔をしかめてこめかみに手を当てた。
異変が起きたことは明らかで、私は咄嗟に立ち上がり「嘉月さん!?」と声を上げた。しかし、鈴加さんがすぐに彼に寄り添う。
「もしかして、あの時のことを思い出されましたか?」
困惑の表情で頭を抱える彼の身体をそっと支え、催眠をかけるかのごとく囁く。
「実は事故に遭う数日前、今と同じように副社長も私と一緒に目撃していたんですよ。都さんが、霜平さんと密会しているところを」
嘘……嘉月さんもあの時見ていたの?
鈴加さんの発言が本当かどうかはわからないが、胸がざわめく。即座に朝陽くんが「鈴加さん」と呼んでたしなめるも、彼女は嘘と事実を織り交ぜて言葉巧みに続ける。
「副社長は表情を固くして立ち去りましたが、私はその後、ふたりが仲睦まじく産婦人科へ行くのを見ていました。写真も残っています。もしかしたら息子さんの父親は──」
あまりにも不快なでたらめに黙っていられなくて、思わず声を上げようと口を開いた瞬間。