身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
耳を赤くして俯く彼女の言葉は、とても自分のこととは思えない。しかし記憶がない以上、真実かどうかを確かめる術はない。
「一夜の過ちだと割り切ろうとしました。記憶も失くしてしまわれたし、なかったことにするしかないって。でもあなたの秘書になって、一緒に過ごすうちに気持ちは膨らむばかりなんです。あなたは覚えていなくても、私はずっと忘れられない」
鈴加さんは目線を上げ、切なげな瞳でまっすぐ俺を見つめて「副社長が好きなんです」と告げた。
彼女が駅での一件から俺を意識していたとは思わなかった。もしや、母たちが結婚をすすめてくるのは、彼女の気持ちを知っていたからでもあるのだろうか。
愛想も悪くて仕事のことばかり考えているような自分を好きになってくれたことは、素直にありがたい。
ただ、心が動かない。動揺はしていても、鈴加さんに恋愛感情が生まれそうな気配はないのだ。もし本当に一夜の過ちを犯していたとするなら、自分を許せないが……。
眉根を寄せて葛藤している最中、ふと先ほど部屋で見つけたピアスを思い出す。
そうだ、今の話が本当なら、ピアスの持ち主は鈴加さんかもしれない。