身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

「さあ、手を乗せてごらん。君の話が本当なら電流は流れないから」
「電流モードにするんですか!? しかもマックス!?」
「もちろんだ」


 きっぱり言い切ると、鈴加さんは怯えたような表情を見せる。恐る恐る手を乗せようとして、しばし葛藤したのちに肩を落とした。


「私、苦手なんですよ、静電気とか……。観念します」


 諦めた様子でため息を吐き出した彼女は、俺を見上げて嘲笑を浮かべる。


「副社長は優しいから、一夜の過ちを犯したと聞けば責任を取って付き合ってくれるかも……なんて卑怯なことを考えたんですが、浅はかでしたね」
「君ほどの人でもそんなふうにするんだな」
「私は皆が思っているような、イイコじゃないんですよ。本気で欲しいもののためには、汚い手も使うような女なんです」


 どこか陰のある笑みを浮かべる鈴加さんは、確かに秘書の時とは違ってダークな雰囲気が漂う。本当の彼女は、まだ誰も知らないのかもしれない。


「俺も、すべてを鵜呑みにするほどいい人じゃないよ。でも、不誠実な行いはしない。部屋に上げるのも、本当に愛した人だけだ」


 記憶がなくてもそれだけは誓えると、ぶれない視線を向けて言った。同時に、自分の言葉に気づかされる。
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