身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
そのひと言で思い出した。この前、昴がお友達とちょっとしたケンカをした時に、『ごめんねの気持ちを伝えるためにお花をあげたらどう? 仲直りのおまじないだよ』とアドバイスしたことを。
それを覚えていて道の反対側にある花を取りに行こうとしたのか、と考えていると、昴は「あ!」と前方を指差す。
歩道の脇にも雑草に交じって白いカモミールが咲いていて、昴はその前に私たちの手を引っ張って連れていく。
「みんな、なかよくするの」
きりっとした顔で言われ、私と嘉月さんは目を見合わせた。
そうか、昴は私たちがケンカしたと思っていて、仲直りさせるために花を取りに行こうとしたんだ。今しがたの危機感が大きすぎて、ヱモリでの出来事がすっかり頭から飛んでいた。
彼なりの心遣いだったのだと理解した私たちは、一度目配せしてから「「ごめんなさい」」と声をそろえて頭を下げた。
特に悪いことをしたわけではないけれど、先ほどの不穏な気持ちはすっかり消えている。お互いに笑みをこぼすと、昴は満足げに胸を張っていた。
嘉月さんは昴の前にしゃがみ、少し憂いを帯びた真剣な表情で見つめる。