身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
数日後、閑古鳥が鳴くヱモリのカウンターの中で、私と里実さんはぼーっとしながら立ち話をしている。午後六時は今日も例外なくお客様がいない。
「家族の仲を深められたのはよかったけど……」
「職を失うことになりそうだもんね、私たち……」
力なくぼやいて、同時に深いため息を吐き出した。
あれからSNSを利用して宣伝しようとか、バズりそうなメニューを考えてみようとか、あれこれ提案してみたがどれもマスターの気を引けずじまい。
彼はいよいよ〝閉店します〟という旨の貼り紙を作り出しているし、新たな仕事も探さなければいけなさそうだ。
「都ちゃんはいいじゃない、イケメン副社長に養ってもらえるんだから! 彼氏ナシ職ナシの三十路女なんて人生積んでるじゃなーい!」
「うっ……」
わーっと泣きマネをする里実さんに、私は言葉を詰まらせる。確かに嘉月さんと結婚したら働かなくてもよさそうだけど、職を失うというよりヱモリで働けないのが残念なんですって。
とりあえず「里実さんには料理のスキルがあるじゃないですか!」と励ましていると、入り口のドアベルが鳴る。