身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
やっとお客様が来たかとそちらを向いた瞬間、ふたりして「あ」と声をそろえた。
「やあ。微妙な時間に来てごめんね」
「朝陽くん! ……と、鈴加さん!?」
仕事終わりらしき朝陽くんと、続いて鈴加さんが入ってきたのでギョッとしてしまった。彼女を見ると身体が強張るのはもはや条件反射だ。そして、もはやヱモリが溜まり場になっている気が……。
朝陽くんは足取り軽くやってきて、私の隣で硬直している里実さんににっこりと可愛らしい笑顔を向ける。
「里実さん、お疲れ様です」
「いっ、いらっしゃいませ~!」
彼女は声を裏返らせて無駄に元気な挨拶をした。
実は、今彼女の推しとなっているのが朝陽くんなのだ。〝遠くからこっそり見て愛でる〟がモットーの彼女だが、朝陽くんは自分から絡んできてしまうので、否応なしに会話するハメになっている。
ふたりともわりとゲーム好きだから気が合うのに、話すようになって半年ほど経っても、彼女はいまだに挙動不審になってしまうらしい。『彼の前ではコミュ障プラス不整脈になっちゃうのよ!』と悩んでいた。
里実さんの心臓、大丈夫かな……と妙な心配をする私に、朝陽くんが言う。