身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
「ちょっと都ちゃんと話したくて来たんだ。ねえ、鈴加さん」
彼に話を振られた鈴加さんは、ムスッとして腕を組み、一瞬だけ私と目を合わせる。
「……もうやめるわ。あなたたちの仲を掻き乱すのは。つまらないんだもの」
彼女の口からぶっきらぼうに出たのは、戦線離脱の意思。驚いて目を丸くしていると、彼女はすぐに顔を背けて踵を返そうとする。
「じゃ」
「待って待って!」
もう帰るの⁉と、思わず引き留めた。鈴加さんはちょっと……いや、結構苦手だけれど、話せば解り合えるかもしれないから。
朝陽くんにも宥められ、ひとまずコーヒーを飲んでいくことになった。ブルーマウンテンを淹れ、ふたりが座るテーブルに置いて私から切り出す。
「あの、いきなりしおらしくなるなんてどういう風の吹き回しで……」
「やっぱり帰ろうかしら」
「すみません」
仏頂面をする彼女に立ったまま即行で謝ると、朝陽くんは含みのある笑みを浮かべる。
「鈴加さん、昴くんに『ママをいじめるな!』って怒られたのがなにげにショックだったみたい。子供に言われるときついことってあるよね」
「そっ、そんなんじゃ……!」
慌てて否定する鈴加さんは、珍しく耳が赤くなっている。これは図星だな。