身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

 彼女の提案はおそらく冗談なのだろうが、即答されて不服そうにしている。

 すると、片づけ中の里実さんが調理場の方から出てきた。朝陽くんは、ふいに彼女に視線を移して言う。


「俺が新しい恋をしたいのは、彼女とだから」


 鈴加さんと共に目をしばたたかせた私は、再び驚愕して息を吸い込む。


「里実さん!?」
「なっ、なにっ!?」


 思わず声を上げると、彼女が驚いて勢いよくこちらを振り向いた。私は一気にテンションが上がり、口元に両手を当てる。

 朝陽くん、いつの間に里実さんを……! ふたりが話すのを見るたび、うまくいけばいいな~なんて思っていたけれど、まさか本当に朝陽くんが前向きに考えていたとは! 里実さんを気に入ってくれてめちゃくちゃ嬉しい。

 彼が甘さを含んだ瞳で里実さんを見つめるから、ずれた眼鏡を直す彼女の顔がみるみる赤く染まっていく。ちゃんと息しているだろうか。


「この間ここでひと悶着あった後、里実さんカッコよかったんだよ。鈴加さんに向かって笑顔でひと言、『人の恋路を邪魔するエネルギーがあるなら、自分に使った方が数倍幸せになれますよ』って。それに心を持ってかれたというか」


 朝陽くんの話を聞き、あの後ここであったことを初めて知った。鈴加さんが改心したのは里実さんの影響もありそうだ。
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