身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
この雑貨たちに共通しているのは古いということ。日本のものだけでなく、アメリカンだったりヨーロピアンだったりするのだが、どれもレトロなものばかり。
かく言う私も昔のものが好きで、個人的に気に入っている雑貨は商品にはせずに店に飾ったりもしている。
年季が入ったオルゴール、ブリキ缶のおもちゃ、芸術的なからくり箱や万華鏡……。見ているだけでわくわくするようなそれらに囲まれて働けるのは、本当に幸せ。
従業員は五人だけで、知る人ぞ知るという感じの小さな店なので、いつもどこかのんびりした空気が漂う、私も大好きな場所だ。
私は今日もホールで接客をしている。緩く波打ったセミロングの髪をひとつに纏め、モカ色のエプロンをつけるのがお決まりの姿。奥二重だけれど目は大きいほうなので、ナチュラルメイクを心がけている。
雲間から薄日が覗き始めた午後二時。最近時々やってくるようになった男性から注文を取り、カウンターの向こうでコーヒーを淹れているマスターこと江森さんに声をかける。
「マスター、ブルマンひとつお願いします」
「あいよっ」
江戸の寿司店かとツッコみたくなるような口調で、五十二歳のマスターが明るく返事をした。