身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
愛しさが舞うスノードーム

 婚約した私たちは、入籍するのは半年後に決め、それまでに同棲の準備をすることにした。もちろん時間を作ってデートも欠かさずに。

 いきなり動き出した青山さん改め嘉月さんとの結婚話に、姉は驚きつつも祝福してくれて、里実さんは『推しと付き合えるなんて!』と叫び、魂が抜けそうになっていた。

 あっという間に三月も終わりに近づいた今日は、仕事終わりに嘉月さんと夜桜を見ようと約束している。

 終業時間の午後六時になり、そわそわしながら調理場で食器の整理を終えたとき、マスターが入り口からこちらを覗き込んで毎度お馴染みの言葉を投げかける。


「里実ちゃん、色男が来たよ~」


 明日使うフルーツの下準備をしていた里実さんと同時に、私もぴくりと反応した。嘉月さん、もう来たんだ。

 里実さんは眼鏡の丁番あたりを指でくいっと上げ、無の表情を変えずに口を開く。


「マスター、今度から呼ぶのは私じゃなく都ちゃんにしてください」
「え、なんでよ?」
「リアルで都ちゃんが付き合ってるんだから、もう青山さんを眺めて妄想するわけにいかないでしょうが」


 やや眉間にシワを寄せて言う里実さんに、私は苦笑いした。
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