身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

 八分咲きの桜はポップコーンのように膨らんでいて、今にも弾けそう。平日なのもあって人はそれほど多くなく、落ち着いて見られる。


「夜桜を見に来たのは久しぶりです」
「ああ。こうやって歩きながらゆっくり見るのもいい」


 穏やかな表情で桜を見上げる彼の横顔も美しい。こんなふうに一緒に楽しめていることに幸せを感じながら、たわいない話をする。


「社員の皆さんとお花見することもあるんですか?」
「あるけど、社員より気を使わない仲間とするほうが多いな。弟がそういう集まりが好きだから、たまに企画してくれるんだ」
「へえ、弟さんが」


 嘉月さんには朝陽(あさひ)さんという弟がいる。と言っても、半分血の繋がった異母兄弟らしいが。

 嘉月さんが小学二年生の時にご両親が離婚した後、お父様は別の女性と再婚したのだが、その人は嘉月さんのお母様と結婚していた頃から密かに付き合っていた相手。つまり、不倫相手だったのだそう。

 彼女は密かにお父様との子を産んでいて、その子が三歳の時に事実を知ったお父様はそちらへ行ってしまったのだ。酷くショックを受けたお母様は憎しみを抱くようになり、嘉月さんもお父様に会うことは許されなかった。
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