身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
話しぶりでは兄弟仲はよさそうでも、特別な関係のふたりだから当事者にしかわからない問題があるのだろうか。
私にはまだ踏み込めない部分なので気の利いたことは言えないが、とりあえず私が抱く嘉月さんのイメージはネガティブなものじゃない。
「真っ暗な夜、明かりを照らしてくれるのは月ですよ。ほら今も、桜をより綺麗に魅せているじゃないですか。ライトアップされたスノードームみたいに」
私も夜空を見上げ、小さい頃から今も好きなアイテムになぞらえた。
雪ではなくて桜だけれど、はらはらと舞う花びらが月明かりに照らされて、ガラスの中の幻想的な世界を彷彿とさせる。
「私には嘉月さんが一番輝いて見えますよ。太陽よりも、私の心をあったかくしてくれる」
繋ぐ手に少し力を込めて、慰めでもなんでもなく、本当に思っていることを口にした。神妙な瞳でこちらを見下ろす彼に、明るく笑いかける。
そのとき、嘉月さんの手がこちらに伸びてきた。後頭部を支えられて目を丸くした次の瞬間、柔らかな唇が触れる。
──え? キス、された?
あまりに突然で思考が停止する。目をしばたたかせていると、余韻を残して離れた唇が苦笑交じりに呟く。