身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
「だから、子供ができたって知ったらすげぇ喜ぶと思うよ。かづ兄に幸せな家族を作ってやってね」
温かい声でそう伝えた彼は、「どのツラ下げて言ってんだって感じだけど」と苦笑を漏らした。
兄思いな朝陽くんに胸がじんとする。彼の言葉を嚙みしめて、「約束する」としっかり頷いた。
話しているうちに、さっきよりは体調がよくなってきた。スマホを見ると予約の時間が迫ってきていて、ひとつ息を吸って背筋を伸ばす。
「朝陽くん、ありがとね。もう大丈夫そう。そろそろ行かなきゃ」
「そこの産婦人科? 心配だから俺もついていくよ。入口んとこまで」
私に続いて彼も腰を上げ、気を遣ったことを言ってくれる。心強いしありがたいけれど、男性にとって産婦人科へ行くのは結構ハードルが高いんじゃないだろうか。
「パパでもないのに産婦人科行くの、気まずくない?」
「人助けなんだから気まずいもなにもないよ」
当たり前だというような調子で、そんなふうにさらっと言える朝陽くんは人として尊敬するな。
「朝陽くんはすごくいい人だね。そういうところ、嘉月さんと似てる」
ふわりと微笑むと、彼は一瞬キョトンとした後、目を逸らして照れ笑いを浮かべた。
嘉月さんに会ったら伝えよう。ふたりは素敵な兄弟だよ、って。