身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

「……やばい。ちょっと、語彙力無くすくらい嬉しい」


 うっすら瞳が潤むくらい感激してくれていて、私にも目一杯の幸せが広がる。彼の手が私を引き寄せるのと、強い風が吹いて身体が押されたおかげで、人が歩いているにもかかわらず彼の胸に飛び込んでしまった。

 横の道路を走る車と強風の音がする中でも、「おめでとう」という声が耳に届く。幸せに包まれて私も彼を抱きしめ返した。

 直後に、どこからかミシミシ、ギーギーと奇妙な音が聞こえてくる。なにかが裂けるような、錆びたものがこすれるような音。

 怪訝に思い、身体を離して辺りを見回すも、特に変わったものはない。嘉月さんに視線を戻すと、彼も音が気になったようでちょうど上を見上げた。

 すると、彼の表情が瞬時に鬼気迫ったものになる。異変は明らかで、私も上を見上げようとした、その時。「危ない!」という声と共に、突然強い力で手を引かれた。


「きゃっ!?」


 嘉月さんの横を通り過ぎてしまい、よろけて転びそうになるのを堪えた次の瞬間、後方で地面になにかが叩きつけられるような大きな音と振動が響き渡り、もう一度小さな悲鳴を漏らした。
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