身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

 嘉月さんが病院に運ばれ、緊急手術をしている間の数時間は生きた心地がしなかった。

 お互いの家に連絡をすると、姉がすぐに駆けつけてそばにいてくれたので、それだけが救いだった。嘉月さんのお母様は隣県に出かけていると言っていたが、もうすぐこちらに来るだろう。

 手術を終えた今、私はICUのベッドの上で目を閉じたままの彼に寄り添っている。一命は取り留めたと知らされた時は泣き崩れてしまった。

 看板が落下した際、近くに停まっていた自転車や障害物があったおかげで、完全に下敷きになるのは避けられたらしい。看板の大きさによっては私も巻き込まれていたかもしれないし、不幸中の幸いだと救急隊の方が言っていた。

 命に別状はないとわかった時点で、姉には先に帰ってもらうことにした。ICUでの面会時間も人数も限られているし、なにより家でなっちゃんが待っているから。

 それからは、頭と腕に包帯を巻いた痛々しい姿の彼をひたすら目に映している。骨折していないほうの手にそっと触れると、温かくてまた涙が込み上げる。

 生きていてよかった。今思うのはただそれだけだ。
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