身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
この中にあまり長くはいられないので、涙を拭って廊下に出る。ちょうどその時、お母様と伯父様が小走りでやってきた。
心配と焦燥が入り混じった表情のお母様が、私に駆け寄って両腕を掴む。
「嘉月は!?」
「頭と腕に怪我をしていますが、命に別状はないそうです。ただ頭を強く打っているので、いつ意識が戻るかはわかりません。戻っても後遺症が残る可能性もゼロではないと……」
「そんな……」
泣きそうな顔をするお母様は、とにかく嘉月さんに会うため中へ入っていく。伯父様も「都さん、ありがとう」とひと声かけて後を追っていった。
私はふらふらとICUの待合室のソファに腰を下ろし、深く息を吐き出した。一命を取り留めて本当によかったけれど、彼が目を覚まして、日常生活になにも問題がないことを確認するまで不安は尽きない。
さすがに疲れも押し寄せてきて、座ったまま呆然としているところへお母様たちもやってきた。
反射的に腰を上げると、目を赤くした彼女が暗い声色で私に話しかける。
「事故が起こった時、都さんも一緒にいたのよね。どうしてあの子だけがあんな怪我を?」
「……私を、庇ってくれたんです」
あの悪夢のような瞬間を思い出し、俯き気味に震える声で答えた。お母様の表情は、やりきれなさや悲しみを露わにして歪んでいく。