身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

 嘉月さんの容体と、セーライとの関係。家にいるとそればかり考えてしまうので仕事には行こうと気持ちを奮い立たせ、事故から三日目の今日はいつも通り出勤している。

 彼はきっと大丈夫だと信じ、朝食も少しだけれど胃に入れてきた。泣いて腫れた目もなんとかメイクでごまかし、無理やり口角を上げて接客をする。

 事情を話した里実さんは私をかなり心配して、ちょくちょく調理場から顔を覗かせては気遣ってくれている。


「都ちゃん、早めに休憩入ってきたら? 見てるこっちのほうがそわそわしちゃって、仕事にならないもの」
「ごめんなさい。でも大丈夫。まだ働き始めて一時間しか経ってないし」


 今は午前十一時を回ったところ。店は十時開店なのでさすがに早すぎる……と、心配性な里実さんに思わず苦笑が漏れた。

 その時、エプロンのポケットに入れていたスマホが振動し始める。普段はロッカーの中にしまっているが、今日はいつ連絡が来てもいいように忍ばせていたのだ。

 お客様が来ないことを確認し、ちらりとスマホを見下ろして目を見張る。着信の相手はお母様だ。

 ドクンと心臓が音を立てる。私はすぐさまマスターに店番を頼み、誰もいない更衣室へ駆け込んでスマホを耳に当てた。
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