身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
──数十分後、私はタクシーを使って急いで病院にやってきた。お金を払うのももどかしく、慌ただしく車を降りて受付へと向かう。
『嘉月の意識が戻ったわよ』
先ほどお母様からそう告げられた途端、全身から力が抜けてまた泣いてしまった。せっかくメイクをしたのに台無しだが、どうでもいい。
とにかく彼に会いたい。その瞳に私を映して、微笑んでほしい。
里実さんだけでなく皆に事情を話すと、『人は足りてるから大丈夫だよ。会いに行ってきな』と快く送り出してもらえて今に至る。優しい人たちに囲まれていて、私は本当に幸せ者だ。
嘉月さんは一般病棟に移ったらしい。電話で聞いた部屋番号を目指して行くと、廊下でお母様が待っていた。先日の気まずさも忘れて一目散に駆け寄る。
「お母様! 嘉月さんの意識が戻ったって……」
「ええ、もう大丈夫。ちゃんと会話もできるし、手や足も動かせるわ」
笑みはないもののほっとした様子の彼女からそう聞かされ、「よかった……!」という声と共に安堵の息を吐き出した。
心底胸を撫で下ろす私に、お母様は固い表情で軽く頭を下げる。