身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
「ブルーマウンテン、お好きですよね? これ、ヱモリで使っている生豆なんです。あなたの話をしたら、うちのマスターがお見舞いに持って行ってあげてと。退院したらぜひ飲んでみてください」
「ああ、わざわざありがとう。マスターにもよろしく伝えてくれ」
包装した紙袋を掲げてみせると、嘉月さんは納得したように口元を緩めた。マスター、勝手に話を作ってごめんなさい……と心の中で謝りつつ、豆を棚の上に置いてさりげなく話をする。
「頭を打ったと聞きましたが、具合はどうですか?」
「怪我の方は少しずつよくなってきた気がするよ。それより、半年間の記憶が飛んでいるらしくてね。俺の中では冬なのに、皆薄着だから驚いた」
真顔で茶化したように言うので、自然に笑いがこぼれた。しかし、彼の表情に苦笑が混じる。
「昨日、部下が見舞いに来てくれたんだが、仕事の件を聞いたらいろいろと様変わりしていて、半年って大きいんだなと実感した。今日と同じ日は二度と来ないし、そういう大事なものを失ったのはやっぱり悔しいな」
悲しげな嘉月さんの言葉が、胸の傷口に沁みてシクシクと痛んだ。