身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

 ──目を開くと、隣に愛する彼の姿はなかった。愛を囁いてキスをする唇も、私を包んでくれる逞しい腕もない。

 懐かしい夢を見てしまった。私はこの人と幸せになるんだと信じて疑わなかった頃の夢。


「……いや、今も幸せか」


 彼の代わりに隣ですやすやと眠る愛しい息子を見つめて呟いた。ふっくらとしたすべすべのほっぺに触れると、自然に笑みがこぼれる。

 嘉月さんと私を今でも繋いでいる、唯一の宝物。は二月で二歳の誕生日を迎えた。

 言葉の爆発期というものなのか、二歳を過ぎたら急に語彙が増えて話が通じやすくなってきた。

 おねしょも少なくなって、昼間のトイレも練習中。一歳になるまでは夜泣きが多くて悩まされたが、好き嫌いもアレルギーもなく、手がかからないほうだと思う。

 二年半と少し前、昴を授かって幸せの真っ只中にいた私は、ある日天国から地獄へと突き落とされたような絶望感を味わった。あの日のことは時々夢に見る。

 嘉月さんはなにも悪くないし、なにも知らない。きっと今も昴の存在は知らないままだろう。果たしてそれでいいのか、いまだに答えは出せていない。
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