身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

 親バカを発揮してひとりしゃべっていたのもつかの間、バシャッと音がしてスープのお椀がテーブルにひっくり返り、「言ってるそばからー!」と叫んだ。

 父は「おやおや」と余裕そうにテーブルを拭き、私は慌てて駆け寄って昴の手や服を確認する。


「おてて、大丈夫? 熱くなかった?」
「うん。だいじょ」
「よかった、服も濡れてないね。セーフ」
「あかいの、ここ」
「え」


 じっと胸の辺りを見ている彼の目線の先を追うと、ケチャップらしき汚れがついていて、思わず「こらー!」と声を上げてしまった。

 決して怒ったわけじゃなく、ツッコミに近い言い方だったのだが、昴の唇がへの字になり瞳がうるっとしたのに気づいてはっとする。


「あー怒ってない、全然怒ってないよ! ちゃんと自分で食べてるだけでえらい! よーしよし」


 笑顔で明るく声をかけ、頭をわしゃわしゃと撫でる。彼はまだむっと唇を結んでいるものの、涙は引っ込んだようだ。

 また汚すかもしれないから着替えさせるのは食べ終わった後でいいやと、ひとまず昴の隣に座って自分も箸を持つと、様子を眺めていた父が苦笑する。
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