身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

「ご機嫌取りは大変だな」
「しょうがない、うちの王子様だから」


 今度は慎重に食べ始める可愛いわが子を一瞥して、私も笑いをこぼした。

 どのくらい叱っていいのかとか、褒めっぱなしだと甘やかしてしまうんじゃないかとか、ほかにも悩みは尽きなくて初めての育児は不安なことだらけだ。

 でも家族がそばにいるから、相談しながらなんとかやれている。人生の先輩たちの存在はやはり心強い。


「お父さんたちがいてくれるおかげで本当に助かってる。いつもありがとう」
「たいしたことはしてないぞ。それより、礼を言うのはこっちだよ。こんなに可愛い孫と毎日一緒にいられて幸せだ」


 父は穏やかに口角を上げた。私がお嫁に行っていたら、昴と一緒には暮らせなかったのだ。父にとっては得した気分かもしれない。

 昴を母にも見せてあげたかったな。その願いはどうやったって叶わないから、また昴と一緒にお墓参りをしに行こう。

 そうしたら母にも伝えるのだ。シングルマザーだって、いいことはたくさんあるよって。


「私も幸せ。昴を産んで本当によかった」


 心からそう呟いて、小さな頭を優しく撫でた。
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