―あすなろの唄―
 だから氷ノ樹とあたしは決断をした。

 一か八かの分離手術という道を。

 あたし達の決意を知って、両親もお医者様もこの想いを受け入れてくれた。

 受け止めてくれた。

 でも……知っているの。

 あたし()()は──分離をしたら、氷ノ樹は助からないということを。

 氷ノ樹の首から上は、あたしと同じ年相応だ。

 でもその下は……とても未熟な状態のまま。

 全ての臓器は備えているけれど、どれも幼児期から成長していない。

 だから彼はいつもあたしの肩にしがみついて、あたしの動きに寄り添ってきた。

「離れれば、君の口から摂取したエネルギーは、全て君の身体を造る要素となるからね」

 お医者様は兄にそう告げて微笑んだ。

 でも……本当のところは違うのだ。

 氷ノ樹だけが眠りに落ちた一週間前、あたしは寝た振りをしながら聞いてしまった。

 手術がどんなに完璧だったとしても、兄の身体は朽ちるのだと。

 両親とお医者様はあたし達の意を汲みながら──あたしだけでも生かそうと覚悟したのだ。

 だからあたしも覚悟したの。

 氷ノ樹の分まで生きてあげる。

 これからは一人の身体で、二人分の素晴らしい人生を生きてやる。

「ね、氷ノ樹。この間途中になってしまった宇宙のお話の続きを聞かせて?」

 歌い終えて満足した様子の静かな兄に、あたしは最後のおねだりをした。
 
  ──彼が居なくなる前に、彼の全てを手に入れよう。


< 3 / 7 >

この作品をシェア

pagetop