―あすなろの唄―
【SIDE:氷ノ樹】

 隣ですやすやと寝息を立てている可愛い妹──明日梛。

 いつの間にか少女から女性への階段を昇り始めた彼女の肌に、僕は極力触れずにいた。

 しがみつくのは繋がった肩先の周囲のみ。

 どうしてってそれ以上触れてしまったら、きっと僕は決断出来なかったから。

 分離手術──彼女と結ばれている、という幸せを捨て去るこの哀しい行為を。

 もちろん僕は妹に恋している訳じゃない。

 ずっと共に生きてきたんだ。

 それがすぐには手の届かない所へ行ってしまうなんて……自分の肉体の一部を失うが如き辛い所業だ。

 彼女は見た目に幾つかのコンプレックスを抱えているらしいが、それらは全て僕にはチャーミングに思えた。

 隣から眺める弓なりの鼻筋も、短い睫毛(まつげ)も、ほんのり紅みのある頬も──どれも愛らしく愛おしい双子の妹。

 そんな彼女が唯一望んだ未来に、僕は逆らえる筈もなかった。

 異を唱える気もなかった。

 それでもまた別の新たな麗しい生活が始まるのかも知れない。

 彼女と離れれば、妹は僕を真正面から見詰めて、優しく微笑んでくれるのかも知れない、と。


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