【奏】きみにとどけ
放課後
ずっと野々瀬と恩田が
見たがってた映画が
今日から上映されるから
4人で見に行こうって
前から約束してた。
そんな日に
また……あいつが現れた。
俺の隣で
目の前にいる恩田と
楽しそうに映画の話をしてたのに―――。
「野々瀬、ちょっといいか?」
ドアからかけられた声は……。
正村の声。
その声にクラス中に噂話が飛び交う。
〝やっぱりあの2人…"
〝だって正村君、お昼休みに
ずっとののちゃんの事見てたし…"
えっ?
ずっと……見てたのか?
〝えぇでも今は椎野君じゃないの?"
〝修羅場か?!"
好奇の声と視線。
歩き出そうとした野々瀬に
小さく…だけど
はっきりと…。
「行くな」
そう言った瞬間
『えっ…』
野々瀬が止まった。
なのに―――…。
「野々瀬、すぐ済むから
少しだけいいか?」
正村の問いかけに
野々瀬は教室を出て行った。
俺の前を通り過ぎて―――…。
近づいてる。
1番近い。
そう思ってた俺の位置は
結局は男友達の枠で
どれだけ仲が良くなっても
どれだけ特別だったとしても
それは全て…近いようで遠い
たった1人ではないんだ。
それを思い知らされた。
俺が縮めた野々瀬との間は
正村に簡単に引き離された。