【奏】きみにとどけ
なのに―――



『彼氏って…誰?

彼氏なんていないよ』



強く否定する野々瀬の言葉に…




「はっ?!

正村とより戻したんだろ?」




『昨日、より戻してくれって言われたけど

ちゃんと断ったよ』





は…ぃ?




何で…?





「だって…好きだったんじゃねぇのかよ?」




『えっ?えぇ??

何で?』




いや、何でって…。



いつも切なそうに外を見てるから…


なんて、言えねぇよ。





いつも野々瀬を見てるって

自爆するようなもんだし…。




「…何となく?」



うわ…自分でも中途半端だぜ。



納得していない表情を浮かべる野々瀬。



何が言いたくて何が言わせたいんだよ。



こいつ、これを素でやってんなら

そうとう性質悪い…。



天然か?!



『どうして?』



はぁ…



もう腹くくれって事だよな?





「はぁ~

いつも野々瀬って

切なそうに空見てっだろ?

だから、正村の事を考えてんだろうなって…」





『違うよ?』





そうか…違う…えっ?



―――…違う?





『正村君の事、考えたりしてないし

確かに前は好きだったけど

今は好きじゃない』




じゃあ…誰だ?




俺にも少しはチャンスある?




ってか、今

言わなくていつ言う??



ずっと言わずにいようと思ったけど


野々瀬が正村好きじゃないって知って言うなんて

すっげぇ卑怯だと思う。




けど―――



これがもし最後のチャンスかもしれないなら…。




友達でいられなくなるより


誰かの隣で笑う野々瀬を見たくない。



俺の隣で笑って欲しいから…―――。
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