【奏】きみにとどけ

驚いて目を見開いた野々瀬。





片目を軽く閉じ


肩を擦りながら


俺はどこかホッとした。



泣き顔でなかった事に…。





『し…いの…くん』




「おう

野々瀬まだ残ってたのか?」




『……うん』




「俺、忘れ物しちゃってさ」




『それより大丈夫?』



心配そうに俺を見つめるけど

それだけでドギマギしちまう。



ってか……何をだ?






近寄ってきて


俺を見つめる野々瀬に…




俺は……


――微動だに出来ず


ただ見つめてた。




『肩…大丈夫?』



躊躇なく触れられたその手を


思わず掴みそうになった。



触れられた肩だけが熱くなる。




「あぁ大丈夫、

これぐらいどうって事ない」




『そっか。

すごい音がしたからビックリしちゃった』



そう微笑む野々瀬が可愛くて…。



何で……今まで気づかなかったんだろう。



こんな可愛く笑うんだって…。



それから、ずっと

野々瀬から目が離せなくなった。




気づくと野々瀬は窓を見ながら

切なそうにしている事が多くて

その度に……俺も切なくなった。



席替えで野々瀬の隣になった。



もちろん……代わって貰った。



仲が良いカズトの前の席だったから

そいつは疑いもせず代わってくれた。


まぁ気づく訳ねぇよな。


気づかれても困るんだけど…。


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