【奏】きみにとどけ
『お揃いだなんて…噂になっちゃうよ?』
「気にしねぇよ」
俺が笑顔を向けると
ちょっと困った感じで野々瀬が微笑んだ。
「あぁ、野々瀬が困るか…」
自分で言った癖に、胸が痛む。
『ううん
そんな事ないよ』
必死な野々瀬に思わず笑ってしまった。
『もう』
そう言いながら少し口唇を尖らせ
拗ねてる野々瀬も可愛いと思った。
きっと学校にいる男達が知らない
俺だけが見る事が出来る野々瀬。
笑顔も何もかも
独り占めしたいと思う。
だけど…心にはまだあいつが
…いるんだろ?
それでも…少しずつ
近づけていければいいと思うんだ。
そして、いつか
手を繋いで歩きたい
そう…願う。
野々瀬が危惧したとおり
1週間もすれば
俺達が付き合ってるだとか
そういう噂が流れた。
『やっぱり…こうなっちゃった
ごめんね』
中庭で4人で昼飯を食ってると
野々瀬が謝りだした。
「気にしねぇって言っただろ?
野々瀬も外したりすんじゃねぇぞ?」
『えっ……う…ん』
外す気だったんだな。
「のの~
外したら今度は別れたって言われるよ?」
「そうそう、
人の噂も75日
アレ?!
合ってるっけ?」
「もう!!
カズトはフォローになってないよ
あははは」
4人の笑い声が響く穏かな一時…――。
野々瀬が笑ってるのが嬉しくて
俺はこの時、気づかなかったんだ…。