白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!
夕食前には支度が必要です
ルトガー様と馬車に乗り連れて来てもらったのは、リンディス伯爵家。
アクスウィス公爵家ほどではないが、それなりに大きな邸で馬車が着くとすぐに下僕(フットマン)が迎えてくれた。
「ご友人のお邸ですか?」
「はい。幼馴染がいるんです」
ルトガー様にそう聞かれて、隠す理由もなくそう答えた。
下僕(フットマン)が開けた馬車の扉から降りると、執事がいつも通りに案内してくれる。
「お嬢様。ご無事でなによりです」
「心配してくれたのね……ありがとう」
昔から、友人のイクセルのいるこの邸に遊びに来ていたから、執事も私のことは良くしてくれていた。
その私のいた屋敷が全焼し、しかも、知らなかったとはいえ騎士団に捜索されていたから。心配させてしまっていた。
ルトガー様と執事に案内されていると、部屋に着く前に、友人のイクセルがやって来た。
フィルベルド様が準備してくれた屋敷が全焼したから、心配していたようだった。
「ディアナ。良かった……無事だったんだな。屋敷が全焼しても、死者がでたと聞いてないから、どこかにいるものかと思ったが……探しに行こうかと思っていたんだ」
「良かったわ……イクセルが領地から、帰ってなかったらどうしようかと思ったのよ」
「帰ったのは、先ほどだ。執事も心配して、家に様子を見に行っていたらしいぞ。途中で、アクスウィス公爵夫人の捜索が終わったから、見つかったのでは? と今しがたまで話していたんだ。それにこちらは……?」
私の顔を見るなり安心したイクセルに、笑顔のルトガー様を紹介した。
「お初にお目にかかります。フィルベルド様の部下のルトガー・ケインズです。今日は奥様のお供で一緒に参りました」
イクセルは、奥様と言う単語に驚いている。私に今までお供なんかいなかったからだ。
「フィルベルド様?」
「実は、夫が帰って来たのよ。やっとお会いできたんだけど……」
お会いできたのは良い。そこは何の問題もない。
おかしいのは、そこからだ。
「良かったじゃないか。今度うちに一緒に晩餐でも来ればいい」
「……今度ね」
フィルベルド様には女性がいるだろうし、私は相応しくないんだから、すぐに離縁のお話をするべきだけど……とりあえず、今夜のことを何とかしないといけない。
「イクセル。一番安いドレスを買うから、少しだけお金を貸してくれない? もちろんいつもの仕事は手伝うから……」
フィルベルド様は、今夜は一緒に食事をしようと言っていた。
絶対にドレスが必要だ。でも、私は、ドレスを一つも持たずにあの全焼した屋敷を出たのだ。
お金のない私には、たった一人の友人のイクセルしか頼れなかった。
イクセルの仕事も、頼まれた時には時々手伝っていたから、それのお金も貰っていた。
「仕事を手伝ってくれるなら、ドレスぐらい買ってやるが……」
「ディアナ様。ドレスを買うのに、お金なんかお借りする必要はありませんよ。フィルベルド様におっしゃればいいのです」
イクセルは、私が白い結婚だと知っているから、やっぱり上手くいってないのか……と慰めようとしている。
ルトガー様は、フィルベルド様に頼ればいいと、軽快に話した。
「……フィルベルド様にご迷惑はかけられませんから……」
「迷惑なんて思わないと思いますけど……もしかして、出かけたのは、ドレスを準備する為でしたか?」
「お城も緊張しますし、今夜一緒にお食事を……と言われていましたから。フィルベルド様に、恥をかかすつもりはありませんので……」
貴族は、食事のたびに着替える。だから、夕食一つにもドレスがいるのだ。
でも、屋敷が全焼して、私は家を守れなかったのに、フィルベルド様にお金を使わせることは申し訳なく思う。
それに、フィルベルド様が見つめて来るから、ずっとあの部屋にいるのはちょっと無理だった。
「ディアナ様。ドレスの心配はいりませんよ。フィルベルド様にお任せください。ディアナ様が、お金を借りてまでドレスを準備したと知れば、フィルベルド様が悲しみます」
「……そうですか」
ルトガー様が優しくそう言うけど、少し落ちこんでしまう。
今の私じゃ、白い結婚とはいえ妻失格だ。
「さぁ、帰りましょう。フィルベルド様がお待ちですよ。奥様に会えるのをずっと待ち焦がれていたのですから」
「そんなことないわ……」
フィルベルド様が、私を待ち焦がれているなんて有り得ない。
一度だけお会いして、手紙も素っ気ないものだった。その上、私からは出せない手紙。
お義父様が心配して、一度だけアクスウィス公爵家から手紙を出そうか? と聞いてくれたこともあったけど、私はそれを断った。
いつも同じ場所にいないから……と、知らされて、私からは出せない手紙の上、フィルベルド様のお仕事の邪魔をする気はなかったからだ。
ルトガー様に連れられて、落ち込む私を心配そうに見ていたイクセルの邸を後にして、お城に戻ると、部屋にはフィルベルド様が書類仕事をしていた。
部屋の扉が開くなり、すぐにフィルベルド様は手を止めて、立ち上がり私に近づいて来る。
「息抜きは出来たか? 早く帰ってくれて良かった」
「はい……ただいま帰りました」
「あぁ、おかえり」
人から、おかえりと言われたのは久しぶりで、恥ずかしながらも嬉しかった。
「ルトガー。今日から、殿下は三日ほどお休みになる。警護の手配は全て済ませたから、俺もその間は休むぞ。後は頼む」
「はい。定時報告には参ります」
「そうしてくれ。ディアナ、宿の手配は出来たから、一緒に行こう。ルトガーに仕事の話があるから、少しだけ待っていてくれ」
「はい。では、廊下で待っていますね」
「すぐに行く」
テキパキと書類を取り動き出すフィルベルド様は、いかにも優秀な感じだ。
そもそも、いくら私よりも年上であっても、24歳という若さで騎士団長についているのは、異例のことではないだろうか。
夫が優秀すぎる。やはり、離縁をすぐにしなければ……。
部屋の扉が開くと、廊下で立って待っている私に、「待たせてすまない」と優しさが溢れている。
「では、行こうか」
「はい」
戸惑いながらも、私は初めて夫と歩き始めた。
アクスウィス公爵家ほどではないが、それなりに大きな邸で馬車が着くとすぐに下僕(フットマン)が迎えてくれた。
「ご友人のお邸ですか?」
「はい。幼馴染がいるんです」
ルトガー様にそう聞かれて、隠す理由もなくそう答えた。
下僕(フットマン)が開けた馬車の扉から降りると、執事がいつも通りに案内してくれる。
「お嬢様。ご無事でなによりです」
「心配してくれたのね……ありがとう」
昔から、友人のイクセルのいるこの邸に遊びに来ていたから、執事も私のことは良くしてくれていた。
その私のいた屋敷が全焼し、しかも、知らなかったとはいえ騎士団に捜索されていたから。心配させてしまっていた。
ルトガー様と執事に案内されていると、部屋に着く前に、友人のイクセルがやって来た。
フィルベルド様が準備してくれた屋敷が全焼したから、心配していたようだった。
「ディアナ。良かった……無事だったんだな。屋敷が全焼しても、死者がでたと聞いてないから、どこかにいるものかと思ったが……探しに行こうかと思っていたんだ」
「良かったわ……イクセルが領地から、帰ってなかったらどうしようかと思ったのよ」
「帰ったのは、先ほどだ。執事も心配して、家に様子を見に行っていたらしいぞ。途中で、アクスウィス公爵夫人の捜索が終わったから、見つかったのでは? と今しがたまで話していたんだ。それにこちらは……?」
私の顔を見るなり安心したイクセルに、笑顔のルトガー様を紹介した。
「お初にお目にかかります。フィルベルド様の部下のルトガー・ケインズです。今日は奥様のお供で一緒に参りました」
イクセルは、奥様と言う単語に驚いている。私に今までお供なんかいなかったからだ。
「フィルベルド様?」
「実は、夫が帰って来たのよ。やっとお会いできたんだけど……」
お会いできたのは良い。そこは何の問題もない。
おかしいのは、そこからだ。
「良かったじゃないか。今度うちに一緒に晩餐でも来ればいい」
「……今度ね」
フィルベルド様には女性がいるだろうし、私は相応しくないんだから、すぐに離縁のお話をするべきだけど……とりあえず、今夜のことを何とかしないといけない。
「イクセル。一番安いドレスを買うから、少しだけお金を貸してくれない? もちろんいつもの仕事は手伝うから……」
フィルベルド様は、今夜は一緒に食事をしようと言っていた。
絶対にドレスが必要だ。でも、私は、ドレスを一つも持たずにあの全焼した屋敷を出たのだ。
お金のない私には、たった一人の友人のイクセルしか頼れなかった。
イクセルの仕事も、頼まれた時には時々手伝っていたから、それのお金も貰っていた。
「仕事を手伝ってくれるなら、ドレスぐらい買ってやるが……」
「ディアナ様。ドレスを買うのに、お金なんかお借りする必要はありませんよ。フィルベルド様におっしゃればいいのです」
イクセルは、私が白い結婚だと知っているから、やっぱり上手くいってないのか……と慰めようとしている。
ルトガー様は、フィルベルド様に頼ればいいと、軽快に話した。
「……フィルベルド様にご迷惑はかけられませんから……」
「迷惑なんて思わないと思いますけど……もしかして、出かけたのは、ドレスを準備する為でしたか?」
「お城も緊張しますし、今夜一緒にお食事を……と言われていましたから。フィルベルド様に、恥をかかすつもりはありませんので……」
貴族は、食事のたびに着替える。だから、夕食一つにもドレスがいるのだ。
でも、屋敷が全焼して、私は家を守れなかったのに、フィルベルド様にお金を使わせることは申し訳なく思う。
それに、フィルベルド様が見つめて来るから、ずっとあの部屋にいるのはちょっと無理だった。
「ディアナ様。ドレスの心配はいりませんよ。フィルベルド様にお任せください。ディアナ様が、お金を借りてまでドレスを準備したと知れば、フィルベルド様が悲しみます」
「……そうですか」
ルトガー様が優しくそう言うけど、少し落ちこんでしまう。
今の私じゃ、白い結婚とはいえ妻失格だ。
「さぁ、帰りましょう。フィルベルド様がお待ちですよ。奥様に会えるのをずっと待ち焦がれていたのですから」
「そんなことないわ……」
フィルベルド様が、私を待ち焦がれているなんて有り得ない。
一度だけお会いして、手紙も素っ気ないものだった。その上、私からは出せない手紙。
お義父様が心配して、一度だけアクスウィス公爵家から手紙を出そうか? と聞いてくれたこともあったけど、私はそれを断った。
いつも同じ場所にいないから……と、知らされて、私からは出せない手紙の上、フィルベルド様のお仕事の邪魔をする気はなかったからだ。
ルトガー様に連れられて、落ち込む私を心配そうに見ていたイクセルの邸を後にして、お城に戻ると、部屋にはフィルベルド様が書類仕事をしていた。
部屋の扉が開くなり、すぐにフィルベルド様は手を止めて、立ち上がり私に近づいて来る。
「息抜きは出来たか? 早く帰ってくれて良かった」
「はい……ただいま帰りました」
「あぁ、おかえり」
人から、おかえりと言われたのは久しぶりで、恥ずかしながらも嬉しかった。
「ルトガー。今日から、殿下は三日ほどお休みになる。警護の手配は全て済ませたから、俺もその間は休むぞ。後は頼む」
「はい。定時報告には参ります」
「そうしてくれ。ディアナ、宿の手配は出来たから、一緒に行こう。ルトガーに仕事の話があるから、少しだけ待っていてくれ」
「はい。では、廊下で待っていますね」
「すぐに行く」
テキパキと書類を取り動き出すフィルベルド様は、いかにも優秀な感じだ。
そもそも、いくら私よりも年上であっても、24歳という若さで騎士団長についているのは、異例のことではないだろうか。
夫が優秀すぎる。やはり、離縁をすぐにしなければ……。
部屋の扉が開くと、廊下で立って待っている私に、「待たせてすまない」と優しさが溢れている。
「では、行こうか」
「はい」
戸惑いながらも、私は初めて夫と歩き始めた。