白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!
夫は妻に贈りたいようです
フィルベルド様に馬車に乗せられて、緊張しながらも着いた先は古くからある格式の高い宿だった。
しかも、宿を前に馬車が停まり、扉が開くとフィルベルド様が先に降りて、私に向かって紳士的に手を差し出して来る。
「ディアナ、おいで」
「はい……」
宿の前に降りると、支配人にボーイにと何人もの従業員に出迎えられている。
その前をフィルベルド様と歩き、ホールに入ると大きな花瓶でお洒落に飾られた花に高価な調度品。赤い絨毯にはシミ一つない。
フィルベルド様は堂々と、支配人と挨拶を交わす。それに習い、淑女のように挨拶をした。
「荷物は、部屋に?」
「はい。ご指示通りにお運びしました」
フィルベルド様は、支配人にそう確認する。落ち着いた顔に、やはりこれがフィルベルド様だ、と頷きたくなる。
支配人の案内で、通された部屋は最上階の部屋で、豪華な家具に装飾のある大きなベッド。暖炉に絵画に、ソファーテーブルには、すでにシャンパンが準備されている。
そして、一番驚いたのは、部屋には贈り物が積み重なり並んでいた。
贈り物を並べるために、用意したであろう立派なテーブルの前で呆然としていると、支配人は静かに部屋を去る。
頭が真っ白になったまま、軋んだ人形のようにゆっくりと隣のフィルベルド様を見ると、ほんのりと笑みをこぼしている。
「ディアナへと買っていたんだ。本当は、屋敷に帰ってから並べるつもりだったが、焼けてしまったからな……ここには、全部を持って来られなかったから、贈り物の一部分だが……」
「……買っていた!?」
「当然だ。ディアナへの贈り物をかかすつもりはない」
その言葉に冷や汗が出そうなことを思い出した。
年に一度の贈り物。
毎年、私の誕生日には、「お父様がフィルベルド様からだよ」と言って、髪飾りやネックレスなど何か一つ贈られていた。
でも、結婚してから頂いたものは、全てこの国で有名な老舗のオートクチュールや宝石店からだったから、フィルベルド様からだと思えず、お義父様のアクスウィス公爵様かお父様がフィルベルド様と離れて暮らす私を気にして買ってくださっただけかと思っていた。
時折くる手紙にも『贈り物はどうだ?』など書かれていなかったし……。
それに、お父様が他界されてからは、仕送りと共に贈り物は途絶えていたのだ。
だから、余計にそう思った。
最後に頂いた贈り物は、二年前に頂いたあの夜会で着ていた深紅のドレス。
頂いた時は、ピッタリのサイズだったから、私のサイズをフィルベルド様が知っているわけないと思って、買ったのはお父様だと思った。
そして、20歳の頃には、少しだけ胸のサイズが変わったから、少しだけ胸回りを直して約束の夜会に着て行ったのだ。
「……もしかして、毎年誕生日に贈り物を?」
おそるおそる聞いてみる。
「誕生日は、結婚する時に頂いた情報で知っていたからな」
「情報!?」
「結婚する時に、お父上からディアナのことを書き記した報告書を頂いた。だから、誕生日も知っていた」
お父様……一体なにをやっているんですか。
まさか、お父様の言う通り本当にフィルベルド様からの贈り物だったとは……!
白い結婚だから、フィルベルド様から毎年誕生日に贈り物なんかくるはずがないと思っていたから、全く信じてなかった。
それに、ほとんど焼けてしまった。あの深紅のドレスも脱ぎ捨てて来たから、もう見ることすら敵わない。
「フィルベルド様……すみません……ドレスもネックレスも全て無くなってしまいました」
「ディアナのせいではない。それに、この目で見て選んだわけではないから、気にするな。隣国にいて、自分で渡せなかったどころか、要望を伝えるだけで自分では選べなかった。申し訳ないのはこちらだ」
私を気遣い、そう言うフィルベルド様は優しい。
「ディアナが気にいるものがあればいいが……自分の趣味には、自信がない」
申し訳なくて、立ったままの私を更に気遣い贈り物を開けようとしてくれている。
「どうした? 開けてみてくれないか?」
何と返事をしていいのか分からなくなり無言でいると、フィルベルド様は一番大きな箱を持ち私に差し出して来た。
「……先ほど、ルトガーに聞いたが、今夜の夕食のためにドレスを自分で用意しようとしていたらしいな……だが、ディアナが金を借りてまで心配することは無い。これでもそれなりに稼いでいる。それに、君は俺の大事な妻だ。ディアナになら、毎日でも贈りたい。そう思えるのは君だけだ」
……嘘を言っているようには見えない。
そう、思えるぐらいフィルベルド様は真っ直ぐに私を見つめている。
「さぁ、すぐに着替えてくれるか? すぐに夕食だ。俺も着替えてこよう」
「はい……ありがとうございます」
見つめられながら大事な妻と言われて、少なからず顔が赤くなる。そのまま、渡されたドレスが入っているであろう箱を両手で受け取った。
フィルベルド様は、「着替えたら迎えに来るよ」と言って部屋を後にする。
残された私は、広いベッドの上で大きな箱を開けた。
落ち着いた黒っぽいドレスに裾には赤いバラの模様の刺繡が施されている。
「綺麗だわ……」
一緒に夕食を摂るのに、フィルベルド様に恥をかかせてはいけないと思い、自分でドレスを準備しようと思ったけど、フィルベルド様に頼る考えはなかった。
ドレスは、全て屋敷に置いてきたから、もう一着も無く、急いで買わないと、と思った。
むしろ、離縁を考えているから、頼ってはいけないとすら思っていた。
……フィルベルド様は、きっと夫の役目は果たそうとしているのね……私も、せめて離縁するまでは、フィルベルド様に恥をかかせないようにしないと……。
そう思い、フィルベルド様から頂いたドレスの支度を始めた。
しかも、宿を前に馬車が停まり、扉が開くとフィルベルド様が先に降りて、私に向かって紳士的に手を差し出して来る。
「ディアナ、おいで」
「はい……」
宿の前に降りると、支配人にボーイにと何人もの従業員に出迎えられている。
その前をフィルベルド様と歩き、ホールに入ると大きな花瓶でお洒落に飾られた花に高価な調度品。赤い絨毯にはシミ一つない。
フィルベルド様は堂々と、支配人と挨拶を交わす。それに習い、淑女のように挨拶をした。
「荷物は、部屋に?」
「はい。ご指示通りにお運びしました」
フィルベルド様は、支配人にそう確認する。落ち着いた顔に、やはりこれがフィルベルド様だ、と頷きたくなる。
支配人の案内で、通された部屋は最上階の部屋で、豪華な家具に装飾のある大きなベッド。暖炉に絵画に、ソファーテーブルには、すでにシャンパンが準備されている。
そして、一番驚いたのは、部屋には贈り物が積み重なり並んでいた。
贈り物を並べるために、用意したであろう立派なテーブルの前で呆然としていると、支配人は静かに部屋を去る。
頭が真っ白になったまま、軋んだ人形のようにゆっくりと隣のフィルベルド様を見ると、ほんのりと笑みをこぼしている。
「ディアナへと買っていたんだ。本当は、屋敷に帰ってから並べるつもりだったが、焼けてしまったからな……ここには、全部を持って来られなかったから、贈り物の一部分だが……」
「……買っていた!?」
「当然だ。ディアナへの贈り物をかかすつもりはない」
その言葉に冷や汗が出そうなことを思い出した。
年に一度の贈り物。
毎年、私の誕生日には、「お父様がフィルベルド様からだよ」と言って、髪飾りやネックレスなど何か一つ贈られていた。
でも、結婚してから頂いたものは、全てこの国で有名な老舗のオートクチュールや宝石店からだったから、フィルベルド様からだと思えず、お義父様のアクスウィス公爵様かお父様がフィルベルド様と離れて暮らす私を気にして買ってくださっただけかと思っていた。
時折くる手紙にも『贈り物はどうだ?』など書かれていなかったし……。
それに、お父様が他界されてからは、仕送りと共に贈り物は途絶えていたのだ。
だから、余計にそう思った。
最後に頂いた贈り物は、二年前に頂いたあの夜会で着ていた深紅のドレス。
頂いた時は、ピッタリのサイズだったから、私のサイズをフィルベルド様が知っているわけないと思って、買ったのはお父様だと思った。
そして、20歳の頃には、少しだけ胸のサイズが変わったから、少しだけ胸回りを直して約束の夜会に着て行ったのだ。
「……もしかして、毎年誕生日に贈り物を?」
おそるおそる聞いてみる。
「誕生日は、結婚する時に頂いた情報で知っていたからな」
「情報!?」
「結婚する時に、お父上からディアナのことを書き記した報告書を頂いた。だから、誕生日も知っていた」
お父様……一体なにをやっているんですか。
まさか、お父様の言う通り本当にフィルベルド様からの贈り物だったとは……!
白い結婚だから、フィルベルド様から毎年誕生日に贈り物なんかくるはずがないと思っていたから、全く信じてなかった。
それに、ほとんど焼けてしまった。あの深紅のドレスも脱ぎ捨てて来たから、もう見ることすら敵わない。
「フィルベルド様……すみません……ドレスもネックレスも全て無くなってしまいました」
「ディアナのせいではない。それに、この目で見て選んだわけではないから、気にするな。隣国にいて、自分で渡せなかったどころか、要望を伝えるだけで自分では選べなかった。申し訳ないのはこちらだ」
私を気遣い、そう言うフィルベルド様は優しい。
「ディアナが気にいるものがあればいいが……自分の趣味には、自信がない」
申し訳なくて、立ったままの私を更に気遣い贈り物を開けようとしてくれている。
「どうした? 開けてみてくれないか?」
何と返事をしていいのか分からなくなり無言でいると、フィルベルド様は一番大きな箱を持ち私に差し出して来た。
「……先ほど、ルトガーに聞いたが、今夜の夕食のためにドレスを自分で用意しようとしていたらしいな……だが、ディアナが金を借りてまで心配することは無い。これでもそれなりに稼いでいる。それに、君は俺の大事な妻だ。ディアナになら、毎日でも贈りたい。そう思えるのは君だけだ」
……嘘を言っているようには見えない。
そう、思えるぐらいフィルベルド様は真っ直ぐに私を見つめている。
「さぁ、すぐに着替えてくれるか? すぐに夕食だ。俺も着替えてこよう」
「はい……ありがとうございます」
見つめられながら大事な妻と言われて、少なからず顔が赤くなる。そのまま、渡されたドレスが入っているであろう箱を両手で受け取った。
フィルベルド様は、「着替えたら迎えに来るよ」と言って部屋を後にする。
残された私は、広いベッドの上で大きな箱を開けた。
落ち着いた黒っぽいドレスに裾には赤いバラの模様の刺繡が施されている。
「綺麗だわ……」
一緒に夕食を摂るのに、フィルベルド様に恥をかかせてはいけないと思い、自分でドレスを準備しようと思ったけど、フィルベルド様に頼る考えはなかった。
ドレスは、全て屋敷に置いてきたから、もう一着も無く、急いで買わないと、と思った。
むしろ、離縁を考えているから、頼ってはいけないとすら思っていた。
……フィルベルド様は、きっと夫の役目は果たそうとしているのね……私も、せめて離縁するまでは、フィルベルド様に恥をかかせないようにしないと……。
そう思い、フィルベルド様から頂いたドレスの支度を始めた。