白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!
夫は離縁に驚く
朝早くから、朝食がフィルベルド様の部屋のテラスに並べられていた。
一緒に食事をするということはフィルベルド様にすれば、感無量らしい。
朝から、この誰もが目を引く端整な顔で笑みを溢しながら見つめられると、少なからず動悸がしている。
「フィルベルド様は朝が早いんですね」
「そうだな……ディアナが待っているかと思うと、夜も眠れなかった。こんなことは初めてだ」
「そ、そうですか」
すみません。私は、いつも通り朝までぐっすりでした。
美味しいお茶を飲みながら食事を進めているが、朝からフィルベルド様がいるのが不思議な感じなのに、見つめられると視線をどこに移していいのか困惑しっぱなしだった。
━━━━━━コンコン。
ノックの音がして扉を見ると、昨日私とイクセルの邸に行ったルトガー様が「おはようございます」と言いながら騎士の隊服で入って来た。
フィルベルド様は、来ることがわかっていたのか部屋の机に置いてあった手紙を取り、ルトガー様に差し出している。
「朝早くから、すまないな。急ぎでこの手紙をだしてくれ」
「はい。こちらは変わりないです」
フィルベルド様と少ないやり取りをすると、ルトガー様は笑顔でこちらを向いた。
「奥様。今日は遠慮なくフィルベルド様におねだりをすると良いですよ」
「おねだりですか……?」
ほぼ初対面であろう夫と再会してたった三日目でなにをねだれと言うのか。
私には、出来そうにない。
離縁でもねだろうかなぁ……と思っていると、「では、失礼しました」と言ってルトガー様はあっという間にいなくなった。
「ディアナ。火事で屋敷もなくなったが、荷物もなくなっただろう。必要な物も買いに行かないか?」
「……あの……お金は?」
「ディアナが持つ必要はない。欲しいものは全て言ってほしい」
あんなに贈り物を用意する人だ。本当に買ってしまいそうだ。
離縁する妻に家も贈り物もいらない。
最後の一口のお茶を飲み、音もなくカップを置いた。
「フィルベルド様……新しい邸を探すのは、止めませんか? 私には、必要ありません」
「……どうしてだ? 他の男のところに行く気か? ディアナを離すつもりはないと昨夜言ったはずだ」
先ほどまでは笑みを溢すほど余裕があったフィルベルド様の声色が低くなり、視線が鋭くなった。
しかし、何の話かわからない。こんなに私を困惑させる人はいないと思えるほどフィルベルド様の考えはわからない。
「あの……何のお話でしょうか?」
「……昨夜、ディアナが慌てて封筒を取っただろう……察してしまった。だが、誰にも渡したくない。恋人がいようが必ず奪ってみせる」
そう言って、膝に乗せていた手を取られドキリとする。
「……あ、あの、離縁の話ですよね? 離縁をしても私に結婚を申し込む方は誰もいませんので……それに、離縁後の心配はいらないかと……」
「離縁!?」
フィルベルド様の引き締まっている目が丸くなって、驚き握られた手に力が入っている。私まで驚き「キャッ」と微かな声が出た。
「あの……封筒の中身を察してくださったのですよね? ですから、離縁するのに、2人の邸はいらないと思うんです」
「………………」
「……大丈夫ですか?」
無言で驚き固まっているフィルベルド様を心配すると、やはり昨夜話すべきだったか……と後悔した。
肘をつき額を抑えている様子を見ると、離縁の話のタイミングを間違えた感はあるけど、離縁をする妻に今から新しい邸を探させることなんて出来ない。
そして、やっと静かに話し出した。
「……離縁して、恋人のもとに行くのか? 昨夜の封筒は恋文だろう?」
「中身は離縁状です……恋文など、人生で一度ももらったことはありませんよ」
「離縁状!? ……ふ、封筒の中身を見せてくれるか? 確認したい」
「はい……フィルベルド様がサインをして下さったら、すぐに出せます」
私は、離縁状の準備は出来ているし心の準備も大丈夫なはずだが、フィルベルド様は困惑したままだった。
手を放してくれないまま、フィルベルド様と私が泊まった部屋に行き、どう話そうか思いながらバッグに入れていた離縁状の入った封筒を渡した。
フィルベルド様は、やっと手を放したかと思うと封筒を開けて離縁状を厳しい顔つきで見ていた。
「自殺しようとしていたのは、恋人と一緒になれないから思い悩んでいたのか? だが、俺が帰って来たから離縁ができると思ったか?」
「さっきから何の話ですか? 恋人はいませんよ。私は、これでも既婚者です。いくらフィルベルド様と白い結婚だとしても、不貞はしません。そして、自殺なんか考えてません。あれはハンカチが落ちたから取ろうと思いまして……忘れてくれると嬉しいのですが」
本当にあの時のことは忘れて欲しい。
鼻水つきのハンカチのことがバレるのではと冷や冷やするし、思い出しただけで恥ずかしい。
「だが、ディアナほど可愛ければ、言い寄って来る男はいたのではないか?」
可愛い? そんなことは言われたことはなく思わず聞き流した。
「……フィルベルド様には申し訳ありませんが、社交界にはあまり出席しませんでした。社交をしてないのは、妻として失格だとはわかってますが……」
社交界では、私は白い結婚だと笑い者だった。
特に、フィルベルド様に結婚を断られた令嬢たちには、すぐに終わる結婚だと噂されていたらしい。
だから、必要な夜会以外は出席することを止めたし、フィルベルド様がいないから、お義父様も無理していくことは無い、と言ってくださった。
その噂を気にして、お義父様がフィルベルド様は仕事でいないだけだ、と噂を止めたこともあったが、表面上は噂をしなくなっても令嬢たちの間ではずっと続いていたのだ。
一緒に食事をするということはフィルベルド様にすれば、感無量らしい。
朝から、この誰もが目を引く端整な顔で笑みを溢しながら見つめられると、少なからず動悸がしている。
「フィルベルド様は朝が早いんですね」
「そうだな……ディアナが待っているかと思うと、夜も眠れなかった。こんなことは初めてだ」
「そ、そうですか」
すみません。私は、いつも通り朝までぐっすりでした。
美味しいお茶を飲みながら食事を進めているが、朝からフィルベルド様がいるのが不思議な感じなのに、見つめられると視線をどこに移していいのか困惑しっぱなしだった。
━━━━━━コンコン。
ノックの音がして扉を見ると、昨日私とイクセルの邸に行ったルトガー様が「おはようございます」と言いながら騎士の隊服で入って来た。
フィルベルド様は、来ることがわかっていたのか部屋の机に置いてあった手紙を取り、ルトガー様に差し出している。
「朝早くから、すまないな。急ぎでこの手紙をだしてくれ」
「はい。こちらは変わりないです」
フィルベルド様と少ないやり取りをすると、ルトガー様は笑顔でこちらを向いた。
「奥様。今日は遠慮なくフィルベルド様におねだりをすると良いですよ」
「おねだりですか……?」
ほぼ初対面であろう夫と再会してたった三日目でなにをねだれと言うのか。
私には、出来そうにない。
離縁でもねだろうかなぁ……と思っていると、「では、失礼しました」と言ってルトガー様はあっという間にいなくなった。
「ディアナ。火事で屋敷もなくなったが、荷物もなくなっただろう。必要な物も買いに行かないか?」
「……あの……お金は?」
「ディアナが持つ必要はない。欲しいものは全て言ってほしい」
あんなに贈り物を用意する人だ。本当に買ってしまいそうだ。
離縁する妻に家も贈り物もいらない。
最後の一口のお茶を飲み、音もなくカップを置いた。
「フィルベルド様……新しい邸を探すのは、止めませんか? 私には、必要ありません」
「……どうしてだ? 他の男のところに行く気か? ディアナを離すつもりはないと昨夜言ったはずだ」
先ほどまでは笑みを溢すほど余裕があったフィルベルド様の声色が低くなり、視線が鋭くなった。
しかし、何の話かわからない。こんなに私を困惑させる人はいないと思えるほどフィルベルド様の考えはわからない。
「あの……何のお話でしょうか?」
「……昨夜、ディアナが慌てて封筒を取っただろう……察してしまった。だが、誰にも渡したくない。恋人がいようが必ず奪ってみせる」
そう言って、膝に乗せていた手を取られドキリとする。
「……あ、あの、離縁の話ですよね? 離縁をしても私に結婚を申し込む方は誰もいませんので……それに、離縁後の心配はいらないかと……」
「離縁!?」
フィルベルド様の引き締まっている目が丸くなって、驚き握られた手に力が入っている。私まで驚き「キャッ」と微かな声が出た。
「あの……封筒の中身を察してくださったのですよね? ですから、離縁するのに、2人の邸はいらないと思うんです」
「………………」
「……大丈夫ですか?」
無言で驚き固まっているフィルベルド様を心配すると、やはり昨夜話すべきだったか……と後悔した。
肘をつき額を抑えている様子を見ると、離縁の話のタイミングを間違えた感はあるけど、離縁をする妻に今から新しい邸を探させることなんて出来ない。
そして、やっと静かに話し出した。
「……離縁して、恋人のもとに行くのか? 昨夜の封筒は恋文だろう?」
「中身は離縁状です……恋文など、人生で一度ももらったことはありませんよ」
「離縁状!? ……ふ、封筒の中身を見せてくれるか? 確認したい」
「はい……フィルベルド様がサインをして下さったら、すぐに出せます」
私は、離縁状の準備は出来ているし心の準備も大丈夫なはずだが、フィルベルド様は困惑したままだった。
手を放してくれないまま、フィルベルド様と私が泊まった部屋に行き、どう話そうか思いながらバッグに入れていた離縁状の入った封筒を渡した。
フィルベルド様は、やっと手を放したかと思うと封筒を開けて離縁状を厳しい顔つきで見ていた。
「自殺しようとしていたのは、恋人と一緒になれないから思い悩んでいたのか? だが、俺が帰って来たから離縁ができると思ったか?」
「さっきから何の話ですか? 恋人はいませんよ。私は、これでも既婚者です。いくらフィルベルド様と白い結婚だとしても、不貞はしません。そして、自殺なんか考えてません。あれはハンカチが落ちたから取ろうと思いまして……忘れてくれると嬉しいのですが」
本当にあの時のことは忘れて欲しい。
鼻水つきのハンカチのことがバレるのではと冷や冷やするし、思い出しただけで恥ずかしい。
「だが、ディアナほど可愛ければ、言い寄って来る男はいたのではないか?」
可愛い? そんなことは言われたことはなく思わず聞き流した。
「……フィルベルド様には申し訳ありませんが、社交界にはあまり出席しませんでした。社交をしてないのは、妻として失格だとはわかってますが……」
社交界では、私は白い結婚だと笑い者だった。
特に、フィルベルド様に結婚を断られた令嬢たちには、すぐに終わる結婚だと噂されていたらしい。
だから、必要な夜会以外は出席することを止めたし、フィルベルド様がいないから、お義父様も無理していくことは無い、と言ってくださった。
その噂を気にして、お義父様がフィルベルド様は仕事でいないだけだ、と噂を止めたこともあったが、表面上は噂をしなくなっても令嬢たちの間ではずっと続いていたのだ。