白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

夫に会えなかったので離縁を決意しました

暗い庭を、街灯の灯りを頼りに男性とあのバルコニーが見える庭を探した。
何としても鼻水つきのハンカチは私が見つけなければ……! と必死で探していると、後ろから男性の声がした。

「あそこに白いものがあるが……」

男性がふと気付いたように見た先のバラの植木には、白いハンカチが引っかかっている。
「これか……?」とハンカチに近づいて行く男性よりも先に取らなければ……! と急いでハンカチに向かって走った。その様子に男性は驚いて立ち止まってしまった。

「……あの……そのハンカチで間違いないのか?」
「は、はい! すみません! 慌ててしまって……大事なものですから、つい……」

大事なハンカチなのは間違いない。6年間、夫婦で生活もしたこともない夫と私を繋ぐ唯一のものだ。
しっかりとハンカチを握りしめる私を見て、男性はホッとしている。
それと同時に、ジッと直視される。こんなに射貫くように人から見られたことなんかない。
ちょっと怖くて、ほんの少しだけ後ずさりした。

でも、勘違いとはいえ自殺を止めようとしてくれたし、庭にも連れて来てくれてハンカチも一緒に探してくれたから良い人なのだろう。
鼻水つきのハンカチが誰にも見られなくて、目尻に涙が浮かぶほど私もホッとした。
そして、男性に向かって頭を下げた。

「ありがとうございました。おかげで大事なハンカチが見つかりました。申し訳ありませんが、待ち合わせをしているのでこれで失礼いたします」
「待ち合わせ?」
「はい」
「………………そのハンカチは、大事なものか?」
「はい。大事なものですけど……」

ジッとこちらを射貫くようにみる男性に、不思議とフィルベルド様の姿が重なる。

フィルベルド様も金髪碧眼の見目麗しい方で、怖いくらいこんなに無愛想だった。
でも、この男性はあの時のフィルベルド様みたいな冷たい目じゃない。
私が自殺しようとしているのを、心配している目だ。

……でも、思い出すと、ほんの少しの時間だったけど、バラ園から「邸に戻ろう」と言われた時は眉間のシワがなかったような気もする。戻る時は後ろをついて歩いたから、細かいことはわからないけど。

「そうか……くれぐれも危険なことをされないように……」

まだ自殺未遂という考えが捨てきれないのか、男性は心配そうに言うと目を反らした。

待ち合わせをしていたと言ったから、お相手の女性でも探しに行きたいのだろう。
あの一瞬見せた表情は、約束の方を待ちわびている顔だった。

私も夫に『やっと会えた……』と彼に待ちわびて欲しい、と思う時もあった。
この夜会に来るまでは、少なからずそう思う気持ちは残っていたのだ。

でも、もう違う……夫のフィルベルド様は姿も現わさない。

もう終わりね……。

悲しい想いでハンカチに力が入り、握りしめたままそっとポケットに入れる。ポケットにはフィルベルド様に渡すはずだったハンカチもある。

そして、白い結婚の終わりを決意すると目の前が白く歪み、私はくらりと倒れたのだ。





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