白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません！

夫は執事に責められる

「一体どこで、ディアナはこの古代文字を見たんだ！！」

アスラン殿下のために、ずっと探している『真実の瞳』。

俺たちは、いまだに手がかりすら見つけられないのに、ディアナがなぜこの古代文字を知っているのかわからない。

「フィ、フィルベルド様？ 奥様は、その箱を見ながらメモを書いていましたが……」
「箱？ 箱には、何も書いてないぞ！」

だが、ディアナも『なんて書いてあるかわからない』と言っていた。

古ぼけた箱のせいで霞んでいると思った蓋の内側を擦るが、何も書いてない。

━━━━どういうことだ。

「ディアナは一体何を見ていたんだ……！？」

これが魔法の箱かもと思うと、まさか魔法で隠されているのか……という気持ちになり、手をかざして魔法を解除する。

「！？」

すると、ゆっくりと古代文字が浮き出てきた。

━━━━『真実の瞳』。

ハッキリと、そう書いてある。

「どうしてディアナはこれを見えていたんだ……それに、『真実の瞳』はどこだ！」

箱を四方から見ても、何も入っていない。
困惑した様子に、イクセル殿がディアナを庇うように話し出した。

「あの……ディアナを怒らないでください。ディアナは、フィルベルド様に嫌われたくなくて、言えなかったんです」

「何をだ？ ディアナを嫌うなんてあり得ないし、怒っているわけでは……」
「…………」

何を隠していたのか、聞くとイクセルは無言で悩んでいる。

「イクセル殿も『真実の瞳』を知っているのか？ リンディス商会では、まがい物の証明書をつかまされてなかった……それと、関係があるのか！？ もし、知っていれば教えてくれ。ディアナのことも知りたいんだ……」

考え込むイクセル殿に懇願した。そして、心当たりがあるのだろうと確信に似たものを感じる。

「……『真実の瞳』のことは知りません。ですが、ディアナは不思議な力があるというか……魔法で隠されているものが見えるんですよ。だから、その箱の文字も魔法で隠されているとわからずに見えていたのだと……ディアナは、フィルベルド様に嫌われたくなくて言えなかったのです。だから、秘密にしてくれと頼まれていて……」

それは、『真実の瞳』の能力そのもの。

「なんてことだ……どんなディアナだろうと、彼女への愛は変わらないのに……！」

この６年。帰ることもかなわず、ディアナに苦労しかさせてないのに、彼女はそれを恨む事もなく、その上俺のことまで気にしていたことに心が傷む。

「フィルベルド様……どうして、エイマール公爵令嬢様と何度も逢引きなんか……その上、邸にまで愛人が突撃するようなことになるのですか……奥様は健気な方で、なにも言われないどころか、愛人部屋まで用意してフィルベルド様に尽くそうとしていたのに……」
「だから、愛人ではない！！　邸に来たのは、アスラン殿下のことで相談に来たものだ！　それに、任命式の時は……!」

いつも冷静なオスカーが悲しげにディアナを思ってそう言い、それを力いっぱい否定した。
そのオスカーを見て、イクセルは「いや、ディアナは健気というタイプでは……」と言うが、俺の愛人を否定する声でかき消されている。

だが、そこでハッとした。

「どういうことだ？　まさか……任命式の時に、ディアナと見たのか！？」
「私は、あの時のフィルベルド様は赤髪だったので、フィルベルド様だとわからなかったのですけど、奥様はフィルベルド様だと……どんなに魔法で髪の色を変えてもフィルベルド様がわかるなんて、奥様はフィルベルド様を好いておられたんですよ……それなのに、夜会でも逢引きされるなんて……」
「ちょっと待て！　ディアナは、あれが俺だとわかっていたのか！？　しかも、夜会！？」
「夜会での出来事は、私は見てませんが奥様は見ていたそうですよ。それでも、奥様は、健気に尽くそうとしていたんですよ。フィルベルド様が大事になさる奥様に逃げられたらどうするんですか！？」

珍しく声を大にして𠮟責するオスカーに、イクセルはまた「ですから、ディアナは健気ではありませんよ……」と言うが俺とオスカーの声に再度かき消されている。

そして、俺は全身の血の気が引いていた。