白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

妻は夫の秘密に困惑する

「……『真実の瞳』ってなんですか? 遺物は珍しいもので……」

困惑したまま、たどたどしくクレイグ殿下に聞く。

「『真実の瞳』は、何でも見通せる能力を持つ遺物だよ。そうだね……例えば、変身魔法で姿を変えても、その眼には本人にしか見えない、という事だよ」

変身魔法を使われても、私には区別がつかないということ。

それは、心当たりがあった。
イクセルのリンディス商会で鑑定師の真似事をしていたことそのものだ。
私には、見えない魔法の印とイクセルに見えるものとで確認し合ってやっていた事。

「……でも、どうしてクレイグ殿下はそれに気づいたんですか?」

イクセルの仕事を手伝っていたことは誰も知らない。
ましてやクレイグ殿下が、リンディス商会のことを知るわけがないし、私が仕事をしていた時はイクセル以外にいなかった。

「まだ、気付かないのかい? 一緒に夜会で逢引き現場を見たのに……」
「夜会? フィルベルド様が、逢引きしていたことですか?」
「あれがフィルベルドに見えていたのは君だけだよ。あれは、誰が見てもアスランだった。フィルベルドがアスランになりすましていたのだよ。……おかげで、アスランの影武者がフィルベルドだと確信を持ったねぇ」

あれがフィルベルド様じゃなくて、アスラン殿下?
では、アルレット様はアスラン殿下と逢引きをしていたつもりなのだ。
もしかして、今までフィルベルド様が女性といたのはアスラン殿下に変身していたのだろうか。
再会の夜会も任命式の時も……それで、私を迎えに来なかった。

「じゃあ……フィルベルド様に愛人はいなかったということですか?」
「フィルベルドにいるかどうかはわからないけど、アスランの体調は誰にも知られたくなかったから、アスランの代わりに女を抱いていたかもね。この6年、誰も女を入れてないなど知られたら不能の噂が立ったかも知れないけど、そんな噂はなかったんだよ」

フィルベルド様としてじゃなくても、アスラン殿下になりすまして女性といた。
それは、浮気ではないとわかるけど……不思議と胸が重い。

「アスラン殿下には、フィルベルド様が必要なんですね」
「フィルベルドの代わりは誰にも出来ないからね。アスランからの要請があれば、すぐに入れ替わる必要があるんだよ」

じゃあ、フィルベルド様は私をこの後宮に迎えに来ないかもしれない。
私などにかまっていれば、アスラン殿下の側にはいられない。
クレイグ殿下の言う通りだ。理由を知れば、フィルベルド様は来ないという気持ちが大きくなる。

「鎖は少し短くするよ。武器のされてはたまらないからね」

言葉がない私を気にせずにクレイグ殿下は魔法で鎖を短くしている。
クレイグ殿下は、床に座り込んでいる私をベッドサイドに座らせると、いつもの飄々とした口調よりも真剣な様子で私に告げる。

「ディアナ。アスランを助けないと私に誓うなら鎖も外すし、この後宮で好きなように暮らさせてあげるよ。もちろん優雅な生活も保障しよう。だが、フィルベルドのところに帰ろうとするなら鎖は外さない。一生ね」
「アスラン殿下……?」

アスラン殿下のことが私に何の関係があるのかはわからず、呆然とクレイグ殿下を見上げる。

「私にも色々あるんだよ」

クレイグ殿下は、覇気のなくなった私に一方的にそう告げると静かに部屋を出て行った。









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